独立を来週に控えてなにかとバタバタしているのですが、そんな合間実務本に交じって井上祐美子さんの文庫本を一気読みしてしまいました。
- 作者: 井上祐美子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/03/23
- メディア: 文庫
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自家薬籠中のものにされている中国を舞台とした短編集。表題の「桃夭記」の他「嘯風録」、「迷宮譚」、「墨匠伝」という3つの短編が収録されており、いずれも小品ながら読み応え十分なのですが、前の3篇が聊斎志異のような怪異掌編であるのに対し最後の「墨匠伝」のみは人間の哀しい妬み、怨念、憎悪を描いた異色の話で一番印象に残りました。
己の趣味の良さを誇るため、名匠の作った墨を争ってもとめる風流人たち。
そんな風流人たちを軽侮しながらも本心は墨匠としての名声を得たいと願う老墨匠と、かって老墨匠を裏切って出奔しその後名声を挙げた少壮の墨匠。当然のように二人の間で展開する醜い争い。そして二人を見守る官吏の道に背を向けた読書人と、名声を巡る二人の争いに翻弄される老墨匠の娘。これらの人々の間であまりにも俗でいながら、どこか哀しい話が繰り広げられます。
結末は推して知るべしですが、それでいて読後どこか心地いい余韻を感じたのは作者の筆力のなすところですね。