よく聞かれる質問で悩ましいのが、「個人の方に外注として作業を手伝ってもらっているのだけど、その対価は給与にならないよね?」というものがあります。
いわゆる「一人親方」に対する外注費ですが、会社が「外注費」として処理していたものを税務調査等で「給与」にされてしまって
「源泉所得税の徴収漏れ」
「仕入消費税の控除の否認」
の二つをダブルパンチで指摘されてしまう事例は、古今枚挙に暇がありません。
ではどこが「事業所得である外注費」と「給与所得である給与」の線引きになるかということですが、基本は
・請負契約に基づくものは「事業所得」
・雇用契約に基づくものは「給与所得」
に該当します。
民法の定義はそれぞれ次の通りです。
(請負)
第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
(雇用)
第六百二十三条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
ただし、形だけ請負契約を結んでおけば良いというものではなく、実質が伴っていなければなりません。
かなり古い個別通達ですが、
直所5−20
昭和28年8月17日大工、左官、とび等に対する所得税の取扱について
大工、左官、とび等の受ける報酬のうち、請負契約に基くものは事業所得とし、雇よう契約に基くものは給与所得として課税すべきことはもち論であるが、そのいずれであるかの判定は、具体的には相当機微に属する問題であり、且つ、事業税の問題とも関連するため、認定の不正確に基く課税の不権衡を唱える向も見受けられるから、今後はその判定に当たつては、下記に掲げる事項をも総合勘案するものとし、これにより適正な運用を期されたい。記
(1) その対価等の請求が工事代として一括してなされているか、又材料代、手間賃等に区分してなされているかどうか。
(2) 店舗を有し、一般顧客のもとめに応じているものであるかどうか。
(3) 使用人を有している者であるかどうか。
(4) 労働組合に加入している者であるかどうか。
や
直所5−8(例規)
昭和30年2月22日
(改正 昭56.12.5 直所5-9)国税局長 殿
国税庁長官
大工、左官、とび等に対する所得税の取扱について
大工、左官、とび等の受ける報酬が事業所得に属するか、給与所得に属するかの判定については、昭和28年8月17日付直所5-20「大工、左官、とび等に対する所得税の取扱について」通達及び昭和29年5月18日付直所5-22「大工、左官、とび等に対する所得税の取扱について」通達により指示したとおり、個々の収入の性質に応じ請負契約に基くものは事業所得とし、雇よう契約に基くものは給与所得とすべきものであることはもち論であるが、その区分の明らかでない下記に掲げる者の受ける報酬については、下記によるもさしつかえないものとして取り扱われたい。
なお、その者について下記のように取り扱うことを相当としない別段の事情がある場合には、この限りでないから了知されたい。記
一 その年中を通じ職人として一定の親方に所属している者の受ける労務の報酬は、原則として、給与所得の収入金額とすること。
ニ 常時使用人その他の従事員を有しないで、また職人として一定の親方に所属もしていないいわゆる一人親方の受ける報酬については、三に掲げる者である場合を除き、その年収(報酬)が450万円以下であるときは、原則として、その年収額にその金額の多寡に応じ、次に掲げる割合を乗じて得た金額は給与所得の収入金額とし、その余の金額は事業所得の収入金額とすること。年収額 年収額のうち給与所得の収入金額の割合
130万円以下 80%
160万円以下 70%
190万円以下 60%
230万円以下 50%
260万円以下 40%
300万円以下 30%
370万円以下 20%
450万円以下 10%三 店舗、作業場等を有し常時一般顧客のもとめに応じていると認められる者の受ける報酬は、雇よう契約によつて受けたことの明らかな個々の報酬を除いては、原則として、事業所得の収入金額とすること。
というものがあり、課税庁側も「機微に属する問題」としています。
職人に対し支払った報酬は外注費ではなく給与に該当するとした事例
裁決事例集 No.25 - 60頁
請求人が支払った報酬は一人親方に対するものであって、外注費として取り扱うべき旨請求人は主張するが、本件報酬について、各職人の労務の提供は、職人個々の独立した事業として行われたものとは認められず、かつ、その労務の提供の対価は基本賃金のほか時間外勤務手当等の支払基準により支払われていることからして、請求人と職人との間の雇用契約書の作成はないものの、その実質は請求人がこれら職人を雇用の上、その就労の対価、すなわち給与等として支払ったものと解するのが相当である。また、仮にこれら職人が請求人主張の一人親方に当たるとしても、その支払う報酬が当該親方の危険と計算によらず、請求人の指揮監督の下に提供された労務の対価としての性質を有するものであれば、所得税法第28条第1項に規定する給与等に当たるとみるのが相当である。
昭和58年3月23日裁決
と言った事例があります。
また消費税の基本通達においても
1−1−1(個人事業者と給与所得者の区分)
事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいうから、個人が雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、かつ、当該他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合は、事業に該当しないのであるから留意する。したがって、出来高払の給与を対価とする役務の提供は事業に該当せず、また、請負による報酬を対価とする役務の提供は事業に該当するが、支払を受けた役務の提供の対価が出来高払の給与であるか請負による報酬であるかの区分については、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく対価であるかどうかによるのであるから留意する。この場合において、その区分が明らかでないときは、例えば、次の事項を総合勘案して判定するものとする。
(1) その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。
(2) 役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
(3) まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。
(4) 役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。
や
5−1−1(事業としての意義)
法第2条第1項第8号《資産の譲渡等の意義》に規定する「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいう。
というような確認がされています。
これらをまとめると、大事なのは
「受注方が独立した一個の事業者として、反復・継続・独立して事業を営んでいること」
が給与所得にされない要件になってきます。
具体的には
- 受注方が、自分で請負金額を計算しているか?
- 受注方が、店舗を構えて使用人を雇っているか?
- 受注方のお客さんが、発注先一社だけではないか?
- 受注方の作業が、誰でもできるものではないか?
- 発注先の指揮監督を受けるか?
- 材料などの支給を受けるか?
といったような要件を斟酌して、総合的に判断していくことになります。
実務上では、もちろん実質が伴っていることが大前提ですが、
「最初に業務の内容を明らかにした請負契約書を締結しておくこと。」
「外注費を支払う場合には、受注方が自分で計算した請求書を発行して、それに基づき支払を行うこと。」
といった形を整え、余計な疑惑を招かないようにしておくことも重要です。
外注費は業種によっては金額も大きくなるので、源泉所得税の徴収漏れと消費税の否認のダブルパンチは結構なダメージになってきます。くれぐれも作業の内容をよく確認し、きちんと反論できるだけの準備をしておきましょう。