- 作者: 宮尾登美子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1998/03
- メディア: 文庫
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陽暉楼というのはかって高知にあったという大料亭の名前で、内容は高知の置屋に売られた一人の芸妓さんの栄枯盛衰を中心に、その料亭で繰り広げられる戦前の社会模様が活き活きと描かれています。
主人公の心情描写にも心打たれますが、同様に心打たれるのは芸妓紹介業の家に生まれた作者の経験に基づいていると思われる芸妓さんたちの周りのリアルな描写です。
置屋の主人である「お母さん」と芸妓さんの関係。料亭に出入りすることができる富裕な「旦那さん」と借金に縛られている芸妓さんの複雑な関係。「旦那さん」を巡っての、芸妓さん同士の激しい対立。実際にそれを間近に見てきた作者であるからこその描写は圧巻でした。
また印象的であったのは、「年季奉公」に縛られる芸妓さんたちの悲喜こもごも。
「一年で辞めたら、これだけの金を請求するぞ!」
到底払えないような過大な金額で脅しながら、使用人を束縛する。現代ではあり得ないことですが、労働法が整備されていなかった戦前では当然のことだったのですね。「職業選択の自由」。今となっては当たり前のように思われる国民の権利ですが、そうなったのはつい最近のことなのですよね・・・。