- 作者: 嶋田賢三郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/03/29
- メディア: 文庫
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架空の繊維メーカー「トウボウ」を舞台に、主人公の財務経理担当役員がたどる数奇な運命が、プロの小説家顔負けの文章力で生々しく描かれています。
どこまでが実話で、どこからがフィクションか分からない絶妙な内容に、500ページを超える長編小説ながら、一気に読んでしまいました。
内容は大きく分けると、次の三段構成になっています。
- 主人公が役員となるはるか前の昭和時代、合繊事業の展開で失敗しその損失の穴埋めを、戦前の簿価のままであった不動産の含み益を利用して消していくスキームと、その後連綿と続く粉飾を是とせざるを得ない会社の体質を描く序章。
- その体質を引きずったまま、破たんへの序曲となる平成10年あたりからの更なる粉飾の手口と、その過程における経営者、銀行、会計士との生々しいやりとりを描く本章。
- そして巨額粉飾発覚後の、検察当局との息詰まる攻防を描く終章。
また文中に出てくる組織名も、序章の「安住産業」、「イソマン」、そして本章の「住倉五井銀行」、「山手監査法人」、「ニッセン同盟」、「クレセント産業」と、実在の組織を容易に想像させるものばかりで、生々しさを一層引き立てます。
生々しさとともに印象深かったのは、作中に描かれた会社の経営者、銀行、会計士ともに、結局最後は自己保身に走ってしまうところです。
責任をなすりつけ合い、臆面もなく相手を貶める描写を読みながら、これが実話だったら人間、最後はやはり自分が一番可愛くなってしまうものなのかなと、ため息をついてしまいました。